【この世界の片隅に】日常目線の”救われる”戦時映画
広島が舞台の戦争映画ですが…
こちら、えらく長い間全国のどこかしらの映画館で上映されていたんですよね。
レビュー評価もとても良く、以前から気になっていたんです。
ただ、コロナ禍の中ではどうしてもスカッとするアクション映画なんかを優先してしまい、アマゾンプライムビデオのウォッチリストにずっと入れたまま鑑賞は後回しにしていました。
で、本日午前中にふと思い立って観てみたんです。
これ、良かったですぅ…(涙)
広島を舞台にした戦争映画という事で、原爆の恐ろしさや戦争の悲惨さを大前面に押し出した内容かと思っていましたが、違いました。
「この世界の片隅」に、ごく普通に生きているちょっとボーッとした女性を主人公に、この時代の普通の日常をお涙頂戴無しで等身大に描いた長編アニメ映画なんですね。
観始めて、すぐに物語に引き込まれました。
素晴らしいのは、まず主人公すずちゃんの声を担当した「のん」さんのアフレコですね。特筆に値すると言っていいと思います。ご本人のキャラクターにも通じた(失礼💧)とぼけた雰囲気を完璧に表現しきっており、僕もすぐに感情移入してしまいました。
その「すずちゃん」の幼少期からお嫁入り、そして終戦までの生活を切り取った作品なのでどでかいエピソードが盛り込まれているわけではありません。その代わりに随所に見どころが設定されていて全く飽きさせる部分が無いんですよ。
また、僕にとっては飛び交う「広島弁」がとにかく心地良くて、それを味わう楽しみもありました。というのも、4月いっぱいで退職した前の会社が広島に本社を置く会社でして、配属されていた営業所でも広島・岡山弁が日常的に耳に入る環境だったんですね。
僕自身は関東の人間なので広島弁の使い手ではありませんが、こうして会社を離れてから聞いてみると何だか懐かしくて…嬉しく思いながら味わう事ができました。
また、広島に行きたいな。
瀬戸内海の美しい景色を思い返しながら、そんな事も考えていました。
あらすじ
ここからはネタバレもあります。気になる方は見ないでください(^^)
冒頭、すずは幼少期の描写です。
後々の伏線となるいくつかの出会いが紹介されます。
「ばけもん」(これが何なのかは最後までわからず終いでした)の背中で出会う、将来の伴侶である周作。
瀬戸内海の絵を代筆してあげた、水原くん。
お婆ちゃんの家で座敷童と間違えた、リンちゃん。
すずは、小さな頃から絵を描くのが好きでした。
作中でも、素敵な絵をたくさん描いてくれます。
本人にとっては単なる風景画だったのが、そこに軍艦が描かれていた為に憲兵に難癖を付けられてスケッチブックが没収されてしまうという「笑い話(?)」も中盤に用意されています。日常の中の非日常がよくわかりますね。
で、すずは前述の通り幼い頃に不思議な出会いをしていた周作に嫁入りします。
「ボーッとしている」事を自負しているすずは、たった一人で知らない家に嫁入りしての生活にてんてこまいです。
嫁ぎ先の義両親はとても良くしてくれますが、義姉からは事あるごとに冷たくされてしまいます。そんな生活の中、すずを癒してくれたのはその義姉の娘である美晴ちゃんでした。幼い美晴ちゃんはすずによく懐き、日々のストレスから10円ハゲをつくってしまったすずのハゲを黒く塗ってあげる為に母親に墨を貸してくれるようにねだるなどの微笑ましいエピソードが盛り込まれています。
そんな感じで当時の嫁入りの「辛さ」が表現されていますが、作中のすずはあくまで「普通」です。いや、普通ではないのでしょうが「悲壮感」を漂わせるような描写はされていません。それが観る者の気持ちを楽にさせてくれるんですね。『すずちゃんがんばれ!』って応援したくなる、等身大の人物像に好感が持てます。
それも、のんさんのアフレコによるところが大きいと思います。
親しみやすい作画と相まって、戦争の中の生活ではなく「生活の中の戦争」を力まずに感じる事ができますね。
話を戻します。
戦争は日を追うごとに身近なものとなっていきます。
すずは周作と仲睦まじく結婚生活を送りますが、かつて絵を代筆してあげた水原くんが海軍に入隊していて、北條家にすずを頼って世話になりにくる…なんてエピソードが用意されています。
すずは水原くんに特別な想いをもっていましたが、夫への愛を再確認して水原に預けそうになった身体を引き留めるんです。
良かったね、周作くん(^^)
また、幼い頃に祖母宅で出会った座敷童ことリンちゃんとも、遊郭街で再会を果たします。
もっとも、お互いにそれとわかったわけではありませんが…。
すずは広島の出身で、嫁入り先は「呉」なんです。そう、造船の街ですね。
戦時中は軍艦の建造がさかんに行われ、かの「大和」も呉で産声を上げました。
となれば当然、本土空襲を始めた米軍の標的となるわけです。
そんな呉から、離縁した夫の元への疎開を決めた義姉が汽車の切符を買う間の子守を任されたすずは、美晴ちゃんと義父(負傷中)の見舞いに行った後で空襲に遭います。
地元の方の厚意で近くの防空壕に入れてもらい難を逃れますが、空襲後に道路脇に埋もれていた時限爆弾の爆発に巻き込まれてしまいました。
そして。
あろう事か、自らの右手と共に美晴ちゃんを失ってしまったのです。
嫁入り先の北條の家で怪我の介抱を受けながら、義姉に激しく罵られるすず。
義母は「あんたのせいじゃない」と慰めてくれますが、自責の念からひどく落ち込んでしまいます。まぁ…当たり前ですよね。
そんな事もあって、北條の家に居場所を失った(と思ってしまった)すずは、広島の実家に戻る決意をします。
時は昭和20年8月6日。
元々はこの日が広島への帰省の日だったのですが、失った右手の治療で掛かっていた病院の予約がこの日にしか取れなかった為、まず病院へ行く準備をしていました。
そのまま実家へ向かうつもりの荷造りをしていたすず。
傍らで裁縫をしていた義姉より、声を掛けられます。
美晴が亡くなった時は悪かった。
あんたのせいじゃない。
あんたはここにいていいんだよ。
どうするかは自分で決めて…。
義姉がしていた裁縫は、すずにモンペを仕立ててくれていたものでした。
周作への想いもあり、考えをあらためて北條の家に留まる事にしたすず。
しかしその背後で、一瞬の閃光が空を覆います。
そして、地震のような大きな揺れ。
何だったのかと外に出ると、故郷の広島方面に見た事も無いような巨大なキノコ型の雲が立ち上っていました。
そう、すずの故郷は原爆に襲われていたのです。
しかし、それがわかるには時間が掛かりました。
8月15日。
北條家で玉音放送を聴いたすずは、激しく憤ります。
一億総玉砕じゃなかったのか!
ここにまだ5人いる!
どうして、どうして…!
すずの慟哭も空しく、時は過ぎ去っていきます。
ほんの少し、安心できるようになった日常。
街には進駐軍が出入りし、人々はたくましく復興への道を歩んでいきます。
すずは広島へ妹を訪ね、そこで初めて両親が既に亡くなっていた事を知ります。
ですが、あまりに多くの死が身近に渦巻いた為か、その両親の死すらも作中では大きくクローズアップされません。
これが、戦争。
死は受け入れ、生き残った者は前を向くんだ…。
その裏で、すず夫妻は戦災孤児の女児に出会います。
娘の母はすずと同じように右手を失っていたようです。原爆の犠牲者だったのです。
力尽きた母の亡骸に寄り添っていた娘は、遺体に虫が湧いてきてようやく母から離れて放浪を始めます。そんな折に出会ったのがすず夫妻だったのです。
夫妻はその娘を抱きかかえ、家に連れて帰ります。引き取って育てるつもりのようです。
そして映画は、エンディングを迎えます。
戦後、ただでさえ物資も少ない中で、見も知らぬ孤児を引き取って育てるという例がどれくらいあったのかは僕にはわかりません。ですが、これはこれでいいと思いました。レビューには「あそこは自分の子を産み育てるエンディングだろ!」というような評価が多いですが、まぁいいじゃないですか(^^)
自分の子を育てるのは当たり前。
そうではなく、こんな時代でも放っておけば消えゆく命に手を差し伸べた人もいた。
それでいいじゃないですか。
「火垂るの墓」とは全く違う描写となりますが、おかげで爽やかに観終わる事ができました。
戦争が爽やかか!と言われたらお終いですが、一つの作品としてこういった物があっていいと僕は思います。これなら、子供たちにも積極的に見せられますから。
本作、見どころは?と聞かれれば「全部」となります。
繰り返しますが、「注目点」はのんさんのアフレコとなりますが、見どころは随所に散りばめられていて絞れないですね。
ピンと来ないという方も多いかと思いますが、騙されたと思って観てみてください!
僕は、アマゾンプライムビデオのウォッチリストからこの作品を削除しません。
また観よっと。
素直にそう思える、良作でしたから…。
そんなわけで、星4つです! ★★★★☆
ありがとう!