【ナリタトップロード】皆に愛されたアイドルホース
希代のイケメン
なぜでしょう。
特別に強かったわけではありません。
悲劇のヒーローだったわけでもありません。
シャレた名前でもありません。
それなのに、僕はこの栗毛が大好きでした。
僕に限らず、競馬ファンにも彼が大好きな人は非常に多かったんです。
見出しの通り、とにかく顔がイケてました。
牝馬のような柔らかい顔つきで、とてもサッカーボーイ産駒とは思えませんでしたね。
そして、渡辺薫彦ジョッキー。
トップロードとの出会いが無かったら、彼の人生はちょっと違ったものになっていたのではないでしょうか。
このコンビが走り続けた数年間、僕は追いかけざるを得ませんでした。
なぜかわかりませんが。
最強世代に生まれて
1999年にクラシックシーズンを迎えたこの世代。
稀に見るレベルの高い世代だったんです。
何と言っても、「世紀末覇王」などとラオウ様の如く恐れられたテイエムオペラオーが常にラスボスとして君臨していました。
そして、クラシックを分け合ったアドマイヤベガ。
古馬になって頭角を現し、追い抜かれてしまったメイショウドトウ。
彼らと真っ向からどつき合い、一度は頂点をもぎ取ったナリタトップロード。
三歳春、彼はクラシックの前哨戦であるきさらぎ賞と弥生賞を連勝します。
しかも弥生賞では、父サンデーサイレンス・母ベガ・騎手武豊というスーパースター候補のアドマイヤベガを見事に下しての優勝だったんです。
早めの仕掛けで強敵を抑えきったこのレースあたりから、僕はこの馬が気になって仕方無くなってきたんですね。
そして迎えたクラシック本番、皐月賞。
1番人気は、そのアドマイヤベガの方でした。
弥生賞は後方から4コーナーで大外ブン回しの強引なレース運びながら、直線では鋭く伸びてトップロードに1馬身差まで追い込んだ底力と、その弥生賞が休み明けであった事から人気を集めたようです。
レースの方は、トップロード・アドマイヤベガとも中団やや後方の位置取りで進めます。
2頭とも4コーナーで馬群を捌くのに苦労し、外目からの追い込み体勢となってしまう一方で内にコースを取ったオースミブライトが直線で抜け出しました。
そのオースミ目掛け、外から猛然と追い込むトップロード!
ベガの末脚は不発で伸びません!
しかし!
その更に外を、正に「放たれた矢」の如く一直線に伸びる馬がいました。
そう、後の世紀末覇王テイエムオペラオーです。
並ぶ間も無くトップロードをかわし、オースミブライトを捉えた所がゴールでした。
トップロードはオースミもかわせず3着。
しかし、「東京なら」と思わせる内容にダービーへの期待が高まったのです。
騎手のウデ
さて、テイエム・トップロード・ベガともそのまま順調に調整され、東京の2,400mに臨む事となりました。
ゾロ目の第66回日本ダービー。
1番人気は我らがナリタトップロード!
何とか勝たせたい。
勝ってほしい。
神様、渡辺クニちゃんに力を!
祈りの中でレースはスタートしました。
3強は問題無くゲートを出て位置取りを固めます。
中団にテイエム。
そのすぐ後ろの外めにトップロード。
完全にテイエムをマークしています。
そして、少し離れた後方グループで静かに追走するアドマイヤベガ。
後から考えれば、この時のベガは正に「虎視眈々」だったわけです。
その位置取りのまま、いよいよ4コーナーを回り直線に入ります。
まず抜け出しを図ったのは、位置取りの順番通りテイエムです。
先行集団を一気に飲み込み、ゴールを目指します。
しかし、少し抜け出しが早い。
その外から、長くいい脚を使えるトップロードがテイエムを捉えに掛かります!
かわした!
残り200mで先頭に立った!
トップロード!ナベちゃん!
僕は、声を枯らして応援しました。
だがしかし。
更にその外を、満を持してムチを入れられたアドマイヤベガが追い込んできます!
もう少しだ!がんばれ!トップロード!!
そんな僕の絶叫をよそに一完歩ごとに差を詰めてきた武豊とベガ。
ゴール直前で見事にトップロードをかわし、クビ差でダービー馬の栄光を奪い取っていきました。
ゴール後、ガックリと首を落とす渡辺騎手。
その横を、噛み締めるように静かにガッツポーズを取りながら走り去る武豊騎手。
全身の力が抜け、その場にへたり込んでしまった僕。
結果、3強がそのまま1~3着を独占したこの日本ダービー。
勝ったのは、アドマイヤベガです。
しかしこのレース、何度見ても僕には「武豊が勝ったレース」にしか見えません。
そう、まだ若く実績も薄いテイエムの和田騎手・トップロードの渡辺騎手に比べて武豊騎手のこのダービーでの落ち着いた騎乗っぷりは際立っていました。
和田・渡辺が悪いのではありません。
武騎手が一枚も二枚も上手だったのです。
この時点での3頭の力は恐らくほぼ互角。
ストレートに言えば、3強のどれでも「武騎手が乗った馬が勝つ」事になったんだろうと思います。
トップロードでも、然りです。
いやはや、お見事!武豊。
戴冠の秋
3強は、無事に夏を越します。
トップロードの秋初戦は京都新聞杯(当時は秋開催)。
奇しくもダービー馬アドマイヤベガと同じステップとなりましたが、レースでもそのダービー馬にまたもやクビ差で差し切られ、2着のスタートとなりました。
一方のテイエムは果敢に古馬に挑戦し、京都大賞典で3着と善戦。
迎えた第60回の菊花賞。
1番人気はアドマイヤベガ。続いてテイエム、トップロードの順です。
秋晴れの京都競馬場で、3冠最後のレースが幕を開けました
1番枠のトップロードは、好スタートからそのまま無理なく先行集団に取り付きます。
中団で牽制し合うテイエム・ベガをよそに、とにかくトップロードの力を出し切る事に全神経を集中させているようでした。
レースはそのまま澱み無く流れ、山の頂上3コーナーでは一塊の馬群となって下りに差し掛かります。
そして4コーナー。
トップロードの前が「モーゼの海」のようにパカッと空き、進路がクリアとなりました!!
迷い無く突っ込み、「切れないが長く良い脚を使う」トップロードの特性を生かしてスパートを掛け逃げ込みを図る渡辺騎手。
直線半ば、外からサイレンススズカの弟であるラスカルスズカが襲い掛かってきます。
更にその外を凄まじい脚で追い込んできたのは覇王テイエムオペラオー!
しかし、春に悔しい思いをしてきた渡辺騎手。
いつも以上の積極的な競馬のおかげで、まだトップロードにはお釣りがあります!
覇王がメンバー最速の上りで真横にまで迫ってきましたが、クビ差残ったところで見事ゴールイン!!
3冠最後の菊花賞で、見事戴冠を果たしたのです!
※菊花賞は3:55あたりからです。
僕は感動の余り、涙を流した覚えがあります。
しかし鞍上の渡辺騎手は、嬉しいGⅠ初制覇にも関わらず涙も見せず笑顔で毅然と勝利ジョッキーインタビューに対応していました。
漢になったなぁ、ナベちゃん!
京都の空と同じく、晴々とした気分に酔いしれた最高のレースでした。
走り続けて
トップロードはその後、菊花賞馬として有馬記念に出走しますが、グラスワンダー・スペシャルウィークに跳ね返され7着に敗れます。
古馬になると、ライバルであったはずのテイエムオペラオーが世紀末覇王として完全覚醒。まったく歯が立たなくなってしまいました。
何とこの年、7戦0勝。
勝ち星を求めて出走し惨めに敗れたステイヤーズSを除く6レースの勝ち馬が全てテイエムオペラオーであったという、完膚なきまでの叩きのめされようだったのです。
しかし、トップロードは走り続けました。
その翌年は阪神大賞典にて久々の勝利を上げるも、6戦1勝。
更にその翌年も現役を続けますが、何とここに来て阪神大賞典連覇を含む重賞3勝を上げます。
この頃にはもうテイエムオペラオーを含むライバル達は皆ターフを去り、代わって頭角を現してきたシンボリクリスエスら次世代の馬たちの強さを身を持って受け止めた後、バトンを渡すように静かに引退の時を迎えました。
引退式は、彼を愛する熱狂的なファンのおかげで大いに盛り上がったものでした。
早過ぎた別れ
父サッカーボーイとは毛色以外あまり似ていなかったトップロードでしたが、その貴重な後継種牡馬として社台SSにて種牡馬生活を開始します。
フローラSを勝って、期待を背負いながら臨んだオークスにて2着に惜敗するなど競争成績まで似ていたベッラレイアがやはり代表産駒という事になるんでしょうね。
でも、そこまででした。
それなりに種付け頭数は集まっていたのですが、GⅠホースを出す前に彼の命が尽きてしまったのです。
享年9歳。
あまりにも早過ぎる死でした。
心不全が死因だったとの事です。
産駒の更なる活躍を見られなかったのは非常に残念ですが、大好きだった馬として僕に多くの思い出を残してくれました。
あの菊花賞があって、本当に良かった。
元気…だよな、天国で。
またな、トップロード。
ありがとう!