【風の谷のナウシカ】蒼き衣を纏った”理想の上司”
拍手の再上映
驚きましたね。
僕の大好きな映画が、コロナ禍の中で劇場再上映を果たしたんですから。
しかも、最初の上映から36年もの月日を経て。
この機を逃すわけにはいかない。僕はTOHO CINEMASに足を運びました。
懐に涙をいっぱい吸収できるようなタオルハンカチを携えて…。
1984年に上映されたこの映画。
映画という意味では、宮崎駿監督の原点のひとつではないかと思います。
上映当時、CMも結構流れていてそのCM中では安田成美さんが歌うテーマ曲が使われていました。CMでは、腐海に落ちそうな人質の爺さんたちを元気づけるためにナウシカがガンシップから立ち上がってマスクを外し、笑って親指を立ててみせるあのシーンが使われていた記憶があります。とても印象に残りました。
しかし1984年当時の僕は部活動に青春を燃やす中学生。
その頃、体育会系の運動部に休みなどありませんでした。土日も普通に練習をしていたんです。興味はあっても、映画を観に行く余裕など無かったですね。
ですから、初めてこの映画を観る事ができたのはTVで放送された時だったんです。まだVHSの時代ですが、ビデオ録画してそれこそ擦り切れるほど何度も何度も観たものでした。
中学生の僕は、単純な「面白さ」でこの作品を観ていました。ストーリーとかメッセージ性については、田舎のアホ中坊だった僕には全く理解できていなかったんです(^^;)
今と違って娯楽も少ない時代ですから、ビデオでも本でも気に入った物は何度も繰り返し見て楽しんだものだったんですね。
このナウシカも、劇中のセリフを全て暗記するほど観まくったんですよ。
ですが、当然そのうちに飽きてきて全く観なくなりました。
定期的にTV放映もされていましたが、その後の高校~大学時代はほとんどこの作品の事は忘れていたと思います。
そして…30歳も過ぎた頃でしたかねぇ。
久しぶりに、TV放映されたナウシカを観てみたんです。
曲がりなりにも大人になって、色んな経験も積んでいました。
そんな大人の僕が久しぶりに観たナウシカは…内容は覚えているし、セリフもまだところどころ頭に入っているのに…中学生の頃に何度も観たあの時とは、全く違う感情を僕に味わわせてくれたんです。
それは、『感動』でした。
自分でも予想していませんでした。
まさか、ナウシカを観て涙を流すなんて。
なぜ、この内容が昔の僕にはわからなかったんだろう?
なるがままになっているようにしか見えなかったストーリーも、大人になった僕はその流れや理由付け等がよくわかるようになっていました。
そうです。
大人になって、ようやくこの映画が”理解できた”のでした。
僕の中で【風の谷のナウシカ】が「娯楽アクション映画」から「壮大な叙事詩」に変わった瞬間でした。
この作品については膨大な考察や紹介がされていますし、何度もTV放映されているので内容を知らない人は少ないでしょう。
ですのでこの場では細かい内容には触れず、僕が感じた事だけを思うままに書いていきます。
↑ 漫画はもっとスゴイですよ!大人買いでどうぞ!
賞賛に値する音楽
先述の安田成美さんが歌う(棒読みでしたが…)テーマ曲は、宮崎監督が難色を示した為劇中では使用されず、エンドロールに載せられただけでした。
これは当たり前でしょうね。どう考えてもあの曲は劇中で使うには空気が違っていた。
「風の谷のーナウーシカー」
と無感情に歌われたあのテーマ曲がもしオープニングあるいはエンディングで使われていたりしたら、全てを台無しにされてしまうところでした。
安田さんには申し訳ないですが…。
で、劇中ではオーケストラの重厚なテーマが使われるんですが、僕はこのテーマ曲が大好きです。素晴らしいです。
音楽担当は、その後のジブリ作品でも宮崎監督がタッグを組む事になる久石譲さんですね。もう、この方は天才ですよ。作品の次元を音楽で上げてしまうんですから。それでこちらは心から感動させてもらえるわけで、本当に感謝です。感動をありがとうございます。
今回初めて劇場で観た際、いつものようにオープニングでこの音楽が流れました。
恥ずかしながら、僕はそれだけで一筋の涙を流してしまったんです。
でも、映画館はいいですね。涙を流しても、流しっぱなしで大丈夫ですから。
一人で行ったし、ソーシャルディスタンスで隣の方とも一席空いてますから。
オープニングのタイトルと音楽を聴いただけで泣いてるおじさんの存在など、誰にもわからなかったはずです。
僕は一人、素晴らしい音楽が持つパワーというものに浸っていました。
ちなみに…。
ナウシカと言えば、もう一つ有名なメロディがありますね。
小さな女の子の歌声で、「ラン、ランララランランラン、ラン、ランラララーン…」と歌われるあの曲。
今でもバラエティ番組なんかでよく小ネタ的にBGMとして使われてます。
あれ、久石譲さんの当時4歳の娘さんの麻衣さんの歌声なのだそうですよ。
Wikiで初めて知りました。
Wikiと言えば、もう一つ面白いネタがありましたよ。
劇中でも重要な役割を担う「王蟲」ですが、彼らの鳴き声は何と当時BOOWY在籍だった布袋寅泰氏のギターの音で作られていたらしいんです!
言われてみれば、1983~1984年当時のBOOWYはアルバム「INSTANT LOVE」発表時という事で、所属は徳間ジャパンでした。
となれば、わかる話です。面白い逸話ですね!
もしかしたら二つとも有名な話なのかもしれませんが、僕はWikiを見て初めて知りました。
他にも色んなエピソードなどが掲載されているので、皆さんも見てみてください。
と…ですね。
上記Wikiを拝見していて気付いたんですが…。
ナウシカの上映の封切りは、1984年の3月11日だったんです。
そう。いわゆる『3.11』ですね。
劇中では、どうでしょうか。
おぞましいばかりの大群となった王蟲が、あたかも大津波のように風の谷に襲い掛かりますね。
そして、酸の海のほとりの旧世紀の船に避難する谷の皆にミトが大声で指示します。
『皆!高いところへ逃げろーっ!!』
3.11。
ミトの号令。
…あまりに出来過ぎた偶然だと思いませんか?
劇場鑑賞を終えて
オープニングから泣いていた僕は、劇中も止め処なく涙を流し続け、クライマックスシーンで涙腺ダムを崩壊させます。
蟲の群れに跳ね飛ばされて命を失ったナウシカが、その王蟲たちによって息を吹き返場面です。
王蟲たちの触手による金色の草原の上で、王蟲の幼生の体液によって蒼く染まった服を着たナウシカが立ち上がり歩み始めます。
その様子を谷の子供たちに聞いた大ババ様の「おおっ!!」という叫び。
そして流れる、あのテーマ曲。
「その者蒼き衣を纏いて金色の野に降り立つべし…」
「古き言い伝えは、誠であった…!」
むせび泣く大ババ様。
号泣する48歳のおじさん(僕)。
良かった。
本当に、観に来て良かった。
この作品を、劇場で観られる日が来るなんて。
本当に幸せだ。
この幸せ、もっと多くの人に味わってもらいたいな。
清々しい感動と涙に浸った僕は、鼻水をマスクで隠して劇場を後にしました。
素晴らしき声優さんたち
アニメ映画と言えば、声優さんも大きな影響力を発揮します。
主人公のナウシカを演じたのは、宮崎作品でお馴染みの島本須美さんですね。
ナウシカの前に「ルパン三世 カリオストロの城」で可憐なお姫様・クラリス役でブレイクされていました。そして、そのクラリスとナウシカはビジュアルもよく似ています。性格はやや異なりますが透明感と芯の強さは共通しており、島本さんの声のパワーがよくわかりますね。
後年には、かの「めぞん一刻」でヒロインの音無響子さんを演じられました。
こちらも透明感があって、ハマリ役でしたね(^^)
宮崎作品には、その後も「となりのトトロ」のサツキとメイの母親役などで出演を果たしていらっしゃいます。
それから、私の好きな榊原良子さん。劇中ではクシャナ妃殿下を見事に憎まれ役として演じられました。
僕にとっては、榊原さんと言えば「Zガンダム」「ZZガンダム」でのハマーン・カーン役がやはり強烈に印象に残っています。クシャナもハマーンも同列の”超ド級のドS”な性格のキャラクターであり、榊原さんで無ければでき得ない難しい仕事だったのではないかと思いますね。
「逆襲のシャア」のナナイ・ミゲル役もセクシーで良かったなぁ~(//▽//)
ちなみにですが…。
ナウシカの作品クレジットを見ると、アスベルの故郷であるペジテの市民役で島田敏さんが参加されていました。
そう、「Zガンダム」のラスボスであるパプテマス・シロッコの声優さんであり、榊原さんのハマーンとは作中でタイマンも張っていましたね。
まぁガンダムネタは置いといて、ナウシカには他にも納谷悟朗さん(ユパ)や永井一郎さん(ミト)、とぼけた爺さん(ギックリという役名らしい)役で八奈見乗児さんなど、昭和を代表する名声優さんが大勢出演されています。
こうして声優さんの事を調べてみると、色々新しい発見があって面白いですね!
理想の上司像
それにしても、映画館で観ると当然の如く画面が大きいのと家では得られない集中力を持って鑑賞するので、今まで気づかなかったところにも気づけましたね。
その一つが、蘇ったナウシカの眼下で喜んでいるように見える”あの”子供の王蟲です。
あの子、あの場面でまだ短くて長く伸ばせない触手を懸命にナウシカに向かって伸ばそうとしていたんですね。
正直、初めて気づきました。
蘇ったナウシカは、自分の体の事よりもその小さな王蟲の元気な姿を見て「良かった…」とつぶやきます。
なんて人だろう。
この人は、常に自分の事など後回しだ。
弱い者を労り自然に最大の敬意を払い、それらを守る為には難局を打破する事を決して諦めない。
劇中でも、家臣のミトらに的確な指示を下していつも自らがまず危険に身をさらし、守るべきものを守ろうとします。
それは自然であり、蟲たちであり、風の谷であり、仲間たちであり…。
さすがに父親であるジル王を殺された時には怒りに我を忘れてその場のトルメキア兵を皆殺しにしてしまいますが、基本的には冷静で指示・指揮にブレがありません。
大人の僕は、ナウシカに『理想の上司像』を見出しました。
そりゃあ、アニメのキャラクターです。風の谷という国家のお姫様で、忠実な家臣がいてそれに指示を与えるのは当たり前でしょう。
ですが、わかっていても気持ちいいですよね。ナウシカの指揮って。
いい歳のおじさんたちに大声で命令して、おじさんたちも「はいっ!」と従ってしまう。かと思えば、優しくお願い事をしたりもする。
理想だ。
こんな上司の下で自分の腕をふるってみたい。
この人のためならっ!と思わせてくれる。
ナウシカ社長についていきたいです!
みなさんも、少しでも思うところがあればあらためて素直な気持ちでこの作品を観てみてください(劇場再上映期間に間に合うのであれば、ぜひ行って下さい!)。
僕の映画好きな面を形成してくれた作品の一つである事に、間違いありません。
というわけで、星5つです! ★★★★★
ありがとう!